ID-S28 ウレア系グリースと潤滑管理 ウレア系グリースとは 現在、耐熱・万能型グリースとしてリチウム系グリースが広く使用されていますが、鉄鋼業界の連続鋳造機・圧延機等の高温、高速、高荷重となる潤滑箇所で問題となるケースが散見されます。 特に、最近ではグリースの統一化、合理化を目的とするメンテナンスフリーのニーズも高まっているためウレア系グリースのような熱安定性、機械的安定性、寿命特性に優れるグリースが広く使用されるようになってきました。 ●ウレア系グリースとは ウレア系グリースとは、ウレア結合(図1)をもつものを増ちょう剤として使用しており、増ちょう剤の生成にけん化反応を伴わないのが特長です。製造方法は、アミンとイソシアネートを、基油を溶媒として表1の反応によりウレア化合物を基油中に細かく析出させて製造するのが一般的です。また、ジアミン、ジイソシアネートを用いることにより、ジウレア、テトラウレアも製造可能です。代表的なウレア構造を表1に示します。 図1 ウレア結合 現在市場に出ているウレア系グリースはジウレアグリースが主流ですが、用途によってはトリウレアとテトラウレアが使用されます。 ●ウレア系グリースの特徴 ウレア系グリースは、増ちょう剤に金属元素を含まないため酸化安定性に有利ですが、ウレアのタイプによっては熱により重合し硬化するものもあります。 また、せん断安定性に劣るタイプもあるため、使用する際には稼働条件等を良く把握したうえでグリースを選択する必要があります。 ウレア系グリースは、リチウム系グリースのような金属石けん系グリースに比べて金属表面に対する付着力が強いため潤滑面での衝撃を和らげる働きをもつものに対して、金属石けん系グリースは軸受転動面に金属石けんの存在や酸化層の形成がほとんど認められないという報告もあります。 以上のことからウレア系グリースの特徴をまとめると次のようになります。 長所 (1)高温下での潤滑寿命が長い(図2) 図2 軸受寿命例 (2)酸化安定性がよい (3)滴点が高い(耐熱性) (4)耐水性がよい(図3) 図3 耐水性例(シェルロール試験、室温、24h) (5)燃えても、灰分が少ない 短所 (1)高温下で硬化傾向の大きいものもある (2)せん断を受けると硬化・軟化度合の大きいものもある ●ウレア系グリースの用途 ウレア系グリースは、主に高温下で耐荷重性、耐水性、防錆性、耐摩耗性、長寿命を要求される箇所に使用されています。 例えば、鉄鋼機械における連続鋳造機械・圧延機、窯業・ガラス工業で使用する加熱炉などです。また、セメント、製紙、自動車産業等ありとあらゆる場で使用されています。 この基油にはいったいどのようなものが使用され、どのような特長があるのか以下に紹介します。 鉱油はウレア系グリースの基油として最も多く使用されており、中でもパラフィン系の実績が多いようです。通常の条件(150℃前後)であれば鉱油系基油でも十分ウレアの特性を生かせ、多大なメリットを生みます。 合成油系は主に温度特性を要求される場合(例えば、寒冷地使用)や高速軸受、騒音対策箇所の使用に適しています。鉱油系と比較して、一般的に合成油は粘度指数が高いため、基油粘度を低くすることができ、低トルク性、低騒音性に優れたグリースの製造が可能です。 多環縮合ナフテンは最近紹介された新しい油でまだ使用実績はないが、ラボ試験において高荷重下での油膜生成能力が高いことが確認されており、今後、重機械産業における各種機械装置の軸受等(低速、高荷重)への適用が期待されています。 次に基油粘度について述べます。これは、グリースを選択する上で重要な因子として考える必要があります。例えば、高荷重領域の使用には高粘度基油、低騒音には低粘度基油といったように機械の使用条件によって種々変化するので、使用する際は機械の使用条件をよく把握しておく必要があります。 ●ウレア系グリースの使用メリット 使用事例を図4、5に示します。いずれも、ウレア系グリースを使用することによって、グリース給脂量の削減、保持器破損の減少につながっています。また、保持器内グリースを継続的にフェログラフィー分析等で潤滑管理することにより、事前に保持器の交換時期を知ることができ、多大なメリットを生んでいます。 ▲ N製鉄所・熱延工場のテーブルローラー軸受使用事例 ▼ 図4 図5 N製鉄所・厚板工場のテーブルローラー軸受使用事例 ●まとめ ウレア系グリースは、これからの産業界の発展と共に高まりつつある省資源、省エネルギーに貢献するグリースです。 ウレア系グリースを使用したことにより、機械寿命の延長、給脂量の削減、メンテナンスの低減、環境の美化、安全操業が図られたという報告も多くされていますが、使用するだけでなく、同時に潤滑管理を継続的に行うことや、条件に適したグリース銘柄の選択(適材適所)を行うことが重要であるといえます。 |
「参考文献」 1)渡嘉敷他:トライボロジー叢書8、潤滑グリースと合成潤滑油、幸書房 2)早野他:PETROTECH, 9-1 (1986) 3)長谷川:PETROTECH, 10-12 (1987) 「出典」 |