ID-L060 W/Oエマルション(Water in Oil emulsion)型油圧作動油の特長 | ||||||||||||||||||||||||||||||
W/Oエマルション型油圧作動油は、高熱加工や高熱体近傍で使用される難燃性油圧作動油です。組成的には、鉱油系の潤滑油中に容積比で30〜40%の水分を乳化剤によって、2μ程度の超微粒子として分散させたものです。図1はW/Oエマルションの顕微鏡写真です。(逆に水の中に超微粒子にした潤滑油を分散させたものが、O/Wエマルションとなります。)![]() 図1 W/Oエマルションの顕微鏡写真 W/Oエマルションは石炭鉱山の火災防止を目的に廉価で、できる限り鉱油系の作動油に近い性質をもった難燃性作動油として開発されたものですが、その特長と他の難燃性油と比較して廉価であったことから、鉄鋼業界を中心に使用されてきました。近年、環境保全が問題化し、排水処理性に優れたW/Oエマルションが見直されつつあります。 W/Oエマルションは、油圧作動油としての基本性能を付与させるため、鉱油をベースに乳化剤・摩耗防止剤・防錆剤・酸化防止剤・防ばい剤(カビやバクテリアの発生を抑制する)等の添加剤と30〜40%の水分を油中にホモジナイザー等により混合、分散させた乳白色の液体です。エマルション特有の粘度特性をもつため、分散する水分の量により動粘度は異なってきますが(図2)、現在は40℃において、46〜80mm2/sのものが製品化されています。 ![]() 図2 動粘度と含有水分の関係 W/Oエマルションの代表的な性状を表1に示しますが、最大の特長は、JIS法による引火点試験で引火点を有しないことで、含水系の特長として水の蒸発潜熱による冷却作用と発生した水蒸気による窒息効果を持っています。従って、消防法上では水−グリコール型と共に、引火点を有しないため非危険物として取扱うことができます。一方、同じ難燃性作動油でもリン酸エステルや脂肪酸エステル系では引火点を有することから、第4石油類としての規制を受けます。(ただし、いずれの場合も不燃性ではなく、特別な条件が整えば引火したり、発火する可能性はあります。)
難燃性作動油等の燃焼特性に関する規格はMILをはじめ、多数ありますが、いずれもある特定条件を設定した試験であり、複数の試験結果を総合的に検討することが必要です。 なお、燃焼性に関しては、本“Q&A”の「ID308難燃性作動油の燃焼性評価法」をご覧下さい。 その他の特徴として、 |
(1) |
価格が廉価であること;圧延設備等で大量に使用する場合には有利となる。 |
(2) | 排水処理性が優れ、公害対策がとりやすい;水−グライコール系作動油と比較して、BOD値、COD値共に格段に低い。 |
(3) | 貯蔵時等の消防法の適用を受けない。 |
などですが、潤滑油使用上、あるいは潤滑油管理上必要な点としては |
(1) | 設備の対応;水系作動油の特性に合わせ、ポンプの材質、フィルターのメッシュ、配管方法、シール・パッキン類の選択、さらには使用圧力などメーカーと相談が必要です。 |
(2) | 水分の維持管理;難燃性を維持するだけでなく、動粘度にも影響がでます。 |
(3) | アルカリ価の維持管理;カビ・バクテリア等の抑制のため、アルカリ価の維持が必要です。 |
(4) | 汚染度管理;一般的な基準で管理しますが、含水性のため汚染物質の除去には紙・天然繊維系のフィルターは好ましくありません。 |
(5) | 他油種とのコンタミ;エマルションの安定性が悪くなりますので、コンタミのないようにして下さい。他油種から切替える場合はフラッシングして下さい。 |
表2は鉱油系作動油と各種難燃性作動油の特性を比較したものですが、それぞれ一短一長があり、使用する環境(雰囲気)や設備機器さらには廃油処理方法を十分に配慮して採用することが必要です。(本表につきましては、「ID307難燃性作動流体の種類と特徴について」に掲げられている表と一部重複すると共に特性についても若干相違する部分もありますが、相対的な評価を示すものですのでご了承下さい)
参考文献 「潤滑油ハンドブック」 潤滑通信社 潤滑通信 '99.8月 潤滑通信社 |