1. はじめに
さび止め油の性能評価方法は、JIS K2246に「さび止め油一般試験方法」として収められています。これらについて概要を紹介します。
2. さびの測定方法
JIS G3141に規定するSPCC-SB(厚さ1〜2×60×80mm)を用い、さび止め試験を実施します。その後、中央に位置する100個の碁盤目(50×50mm)を測定域とし、1点以上のさびの発生した碁盤目の数(%)で表示します。
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- A級:さびなし
- B級:1〜10%さび発生
- C級:11〜25%さび発生
- D級:26〜50%さび発生
- E級:51%以上さび発生
3. さび止め性評価方法
さび止め油塗布条件;温度:23±3℃、湿度:70%以下 浸せき時間:1分 乾燥時間:24h
- (1)湿潤試験 NP-1以外の全てのさび止め油に適用
- 高温、高湿の状態に保ち、さび発生の状態を加速させ、さび止め性を評価する方法です。
- 温度:49±1℃、湿度95%以上。
- (2)塩水噴霧試験 NP-1、NP-2、NP-19、NP-6、NP-7に適用
- 塩水を霧化した状態で噴霧し、さび発生の状態を加速させる試験方法です。湿潤試験より短時間で結果が判明する利点があり、海岸等に類似した条件下でのさびの評価に適します。
- 塩水濃度:5±0.1% 噴霧量:1〜2ml/80cm2/h 温度:35±1℃
- (3)格納貯蔵試験 NP-2、NP-3、NP-19、NP-6に適用
- さび止め処理した試験片を包装紙で包み、とじ目を粘着テープで密封して、格納貯蔵箱(水槽を備えた百葉箱に類似)に格納し、さび止め性を評価する方法です。屋内貯蔵でのさび、油しみの評価に適します。時期、場所により結果が異なるので注意を要します。
- 包装紙:ポリエチレンラミネート紙 試験片下端の位置:水槽の水面より10cm上
- 試験片の傾斜角:75°
- (4)塩水浸せき試験 NP-10に適用
- 海水中におけるさび止め性を評価する方法です。
- 塩水濃度:5±0.1% PH:8.1±0.1(炭酸ソーダで調製) 温度:23±3℃ 時間:20h
- (5)耐候性試験 NP-1に適用
- さび止め処理した試験片を耐候性試験装置に取りつけ、所定時間運転後のさび、油しみの発生を評価する方法です。
- ブラックパネルの温度:63±3℃ 散水量:2.1±0.1L/min 散水時間:12分連続/60分中
- (6)軒下暴露試験(JISでは規定していない)
- 南面の雨のかからない軒下に垂直に暴露し、さび、油しみを評価する方法です。工場内などの風通しの良い場所でのさび、油しみの評価に適します。時期、場所により結果が異なるので注意が必要です。特に高温、多湿の夏季でさび、油しみが発生しやすいです。
- (7)屋外暴露試験(JISでは規定していない)
- 硬質膜タイプのさび止め油は、屋外で使用される場合が多く、この条件に適した試験です。
- 南面に10°の傾斜角で暴露。時期、場所により結果が異なるので注意が必要です。
- (8)水置換性試験 NP-3-1、NP-3-2に適用
- 金属表面に付着した水を除去する能力がないとさびが発生します。特に水溶性加工液で加工した製品を防錆処理する場合に適します。
- 水を付着させた試験片を、試料に15秒浸せきした後取り出し、簡易湿潤器中に23℃で1h放置します。その後、試験片のさび、肌荒れ、汚れなどの有無を調べます。
- 試料:10%の水を加え混合、その後55℃で16h保持し、23℃まで放冷後、再混合したもの。
- (9)指紋除去性試験 NP-0に適用
- 食塩、尿素、乳酸とからなる人工指紋を付着、乾燥させた試験片を、指紋除去装置を用いて、試料及び溶剤(大豆揮発油又はミネラルスピリット)中で各2分間洗浄し、乾燥します。この試験片を簡易湿潤器に入れ、23±3℃で24h放置した後でのさび止め性を評価する方法です。
- (10)取り扱い防食性 NP-0に適用
- 試料を被覆した試験片に人工指紋液をプリントした後、23±3℃で24h放置し、さび発生の有無を調べる試験方法です。
- (11)酸中和性試験 NP-10,NP-20に適用
- 試料が酸性物質を中和し、さびを防ぐ性質を評価する試験です。
- 0.1%臭化水素酸(水溶液)を付着させた試験片を試料に浸せき後、液切りし、23℃で4h懸垂します。その後さび,肌荒れ、汚れ、変色の有無を調べる試験方法です。
- (12)気化性さび止め性試験 NP-20に適用
- 試験片を取り付けた密閉容器中に試料油と湿度90%に保持するためのグリセリン水溶液を別々に入れ、20℃で20h保持した後、試験片を2℃に冷却して表面を結露させ、3h後にさび発生の有無を調べる試験です。
- (13)暴露後の気化性さび止め性試験 NP-20に適用
- ペトリ皿に試料120mlを入れ、ふたをしないで23℃に7日間保持した試料について、(12)の試験を行ないさび発生の有無を調べる試験です。
- (14)加熱後の気化性さび止め性試験 NP-20に適用
- 試料瓶に試料120mlを入れ、ふたをして65℃に7日間保持した後,室温まで放冷した試料について、(12)の試験を行ないさび発生の有無を調べる試験です。
4. さび止め性以外の評価方法
- (1)引火点(JIS K 2265)
- ペンスキーマルテン密閉式:NP-0、溶剤希釈形さび止め油に適用
- クリーブランド開放式(COC):上記以外のさび止め油に適用
- (2)流動点(JIS K 2269-3) 潤滑油形さび止め油に適用
- 試料を45℃に加熱した後、かき混ぜないで規定の方法で冷却します。この方法で試料が流動していた最低温度で表します。
- (3)動粘度(JIS K 2283-3) NP-0、 潤滑油形さび止め油、NP-20に適用
- 粘度をその液体の同温度、圧力での密度で除した商。液体が重力の作用で流動するときの抵抗の大小を表します。
- (4)粘度指数(JIS K 2283-4) 潤滑油形さび止め油に適用
- 温度による動粘度の変化の度合いを表す数値。粘度指数が高いほど温度による粘度変化が少ないことを示します。
- (5)粘度変化(%) NP-10、NP-20に適用
- (不揮発分の動粘度−試料の動粘度)×100/試料の動粘度(動粘度測定温度:50℃)
- (6)沈澱価(JIS K 2503-4、NP-6はJIS K 2231) NP-6、NP-20に適用
- 試料10mlと沈澱用ナフサ90mlとの混合物を規定条件で遠心分離した際に生じる沈澱物のml数を無名数で表したものです。
- (7)炭化水素溶解性 NP-20に適用
- 沈澱価測定後の試料を23℃24h放置し、相の変化、分離の有無を表します。
- (8)銅板腐蝕性(JIS K 2513) NP-7、NP-8、NP-9に適用
- 磨いた銅板を30mlの試料に浸せきし、100℃、3h保った後、洗浄して腐蝕度合いをASTM D130に規定された銅板腐蝕標準板を用いて判定します。数字が低いほど腐蝕は小。
- (9)泡立ち試験(JIS K 2518) NP-10に適用
- 24℃に保った試料190mlに5分間規定流量で空気を吹き込み、直後と10分間放置後の泡の量を測定します。新たに試料180mlを採り、93.5℃で前と同様に試験し、更にその試験後の試料を24℃で試験します。
- (10)酸化安定性試験(JIS K 2514-4) NP-10に適用
- 試料中に触媒及びワニス棒を浸し,165.5℃で24hかき混ぜて、酸化させた後、動粘度と全酸価を測定します。ついで未酸化油の動粘度と全酸価と比較して、その増加率を求めます。
- (11)融点(JIS K 2235-5.3) NP-6に適用
- 温度計に一定量の試料を付着させ、規定速度で加熱し、その初滴が温度計から落下するときの温度を指します。
- (12)ちょう度(JIS K 2235-5.10) NP-6に適用
- ペトロラタムの硬さを表すもので、規定条件下で試料中に規定の円錐が垂直に進入する深さを表します。
- (13)揮発性物質量(%) NP-10、NP-20に適用
- 試料5gを精秤し、沸騰水浴中で加熱し、加熱前後の重量差より揮発性物質量(%)を算出します。
- (14)酸素吸収量 NP-6に適用
- 試料4.00±0.01gを酸素圧760kPaのボンベ中で99℃100h加熱し、試料の酸化による酸素圧の減少を測定します。
- (15)膜厚 溶剤希釈形さび止め油に適用
- 試料中に1分間浸せきし、24h垂直に懸垂した後、試験片の皮膜重量を測定し、試料の膜密度を用いて膜厚(μm)を算出します。
- (16)乾燥性 溶剤希釈形さび止め油に適用
- 23±3℃で所定時間(NP-1は4h、その他は24h)乾燥後の膜の状態を指触で調べます。
- 油状態:油膜の状態。
- 軟らかい状態:軟膏状の被覆膜で指先で軽く擦ると擦り後がつく状態。
- 指触乾燥の状態:被覆膜の中央を指先で軽く触れても指先が汚れない状態。
- 不粘着の状態:被覆膜の中央を指先で軽く擦り、被覆膜に擦り後が付かない状態。
- (17)流下点 NP-1、NP-6、NP-19に適用
- 被覆膜を80℃及び40℃に1時間垂直に保持し、被覆膜が基準点まで落ちるかどうかを判定します。
- (18)除膜性 気化性防錆油以外の防錆油に適用
- 下記に規定する試験を終了した試験片の除膜性が溶剤によって除去されるかを調べる試験です。
- 溶剤:JISK2201に規定する5号(クリーニングソルベント)
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