ID-096 放電加工油について |
ワイヤー放電加工機では加工液として主に水が使われますが、形彫り放電加工機では炭化水素系加工液が使われています。炭化水素系加工液としては初期に灯油、スピンドル油、マシン油等が使われていましたが、低粘度鉱油系専用油が開発され、これが広く使われるようになりました。その後臭気、肌荒れ問題が重視され、合成炭化水素系専用油が広く使われるようになりました。しかし合成炭化水素系では鉱油系のような加工速度が得られないために生産性が低下することになり、加工性の良好な合成系加工液開発への期待が高まってきました。 |
1.鉱油系放電加工液 |
市販されている鉱油系放電加工液の性状を表1に示します。1.7〜2.2mm2/s@40℃と粘度が低く、加工屑やカーボンの排出作用に優れています。引火点は75〜101℃であり、消防法で定める危険物第4類第3石油類(引火点70℃以上)に該当しています。一部の商品にはフェノール系の酸化防止剤が添加されていますが、一般的に色相変化が大きいです。また精製度があまり高くないために、残っている不安定な芳香族分による臭気や皮膚刺激が指摘されることも多いようです。しかし鉱油系放電加工液は廉価であること、芳香族成分による加工速度が良好な点が大きな長所となっています。 |
放電加工油A | 放電加工油B | 放電加工油C | 放電加工油D | |
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動粘度mm2/S@40℃ | 1.7 | 2.2 | 2.2 | 2.1 |
色、セイボルト | +30 | +30 | +30 | +29 |
引火点 PM、℃ | 82 | 97 | 82 | 101 |
アニリン点、℃ | 70 | 68 | 89 | 60 |
流動点、℃ | −35 | −45以下 | −45以下 | −37.5 |
全酸価 mg KOH/g | 0.00 | 0.00 | 0.00 | 0.01 |
芳香族分 %(FIA分析) | 7 | 21 | 1 | 23 |
蒸留 IBP、 ℃ | 199 | 238 | 200 | 235 |
EP、 ℃ | 249 | 268 | 263 | 254 |
酸化防止剤 | 添加 | 添加 | 無添加 | 添加 |
2.合成系放電加工液 |
市販されている合成系放電加工液はイソパラフィンかノルマルパラフィンです。これらは鉱油系と異なりフェノール系酸化防止剤を添加している製品は少ないようですが、色相変化を起こしにくいです。性状は表2のとおりですが、鉱油系と大きく異なる点は不安定な芳香族分を含んでいないことです。そのため臭気がほとんどなく、皮膚刺激性も鉱油系に比べると大幅に改善されています。 合成系には芳香族が含まれておらず、これが鉱油系に比べて加工速度が低くなる大きな原因となっています。 |
合成放電 加工液A |
合成放電 加工液B |
合成放電 加工液C |
合成放電 加工液D | |
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動粘度mm2/S@40℃ | 2.4 | 2.8 | 2.5 | 1.8 |
色、セイボルト | +30以上 | +30以上 | +30以上 | +30以上 |
引火点 PM、℃ | 83 | 95 | 86 | 99 |
アニリン点、℃ | 87 | 88 | 91 | 87 |
流動点、℃ | −45以下 | −45以下 | −45以下 | −45以下 |
全酸価 mg KOH/g | 0.00 | 0.00 | 0.00 | 0.00 |
芳香族分 %(FIA分析) | 0 | 0 | 0 | 0 |
蒸留 IBP、 ℃ | 206 | 223 | 215 | 225 |
EP、 ℃ | 257 | 252 | 264 | 260 |
酸化防止剤 | 無添加 | 無添加 | 無添加 | 無添加 |
3.高速合成系放電加工液 |
合成系放電加工液の長所(皮膚刺激性、臭気、寿命)を損うことなく加工速度のみを改善させたものが高速合成系放電加工液です。加工速度を向上させるためには合成炭化水素中に臭気が低く安全性の高い芳香族化合物を添加するか、高分子炭化水素を添加するとよいようです。加工速度が速くなるメカニズムについてはまだ十分に解明されていませんが、芳香族ではアーク放電防止性が優れている点、高分子炭化水素では沸点が高いため冷却時の蒸気膜段階がすみやかに消失する点が影響していると推測されています。市販されている高速合成系放電加工液の性状を表3に示します。B、Cではノルマルパラフィンにポリブテン等が添加されています。 |
高速合成放電 加工液A |
高速合成放電 加工液B |
高速合成放電 加工液C | |
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動粘度mm2/S@40℃ | 2.4 | 1.8 | 1.9 |
色、セイボルト | +30 | +30以上 | +30以上 |
引火点 PM、℃ | 96 | 77 | 85 |
アニリン点、℃ | 72 | 87 | 88 |
流動点、℃ | −12.5 | −20.0 | −12.5 |
全酸価 mg KOH/g | 0.00 | 0.00 | 0.00 |
蒸留 IBP、 ℃ | 228 | 193 | 211 |
90%、 ℃ | 306 | 233 | 215 |
EP、 ℃ | 312 | 250 | 326 |
酸化防止剤 | 無添加 | 添加 | 添加 |