ID-353 切削油でおこる皮膚炎の予防法について
 
 現在市販されている切削油に関する限りは、別に有害なものはないと考えます。
 油脂はもちろん無害ですし、添加されているEP剤も劇毒物を使用しておりませんから経口的な場合以外人体に障害はありません。活性型硫黄油などで多少不快な臭いを出すものがあるだけです。
 
 しかし油自体は有害でなくとも、常に油に触れておりますと皮膚炎(かぶれ・油疹)を起こすことが案外多いものです。
 皮膚に長時間切削油が付着しますと、まづその部分にかゆみを覚え発疹ます。この時皮膚に抵抗性がありますと黒い斑点(Black・Head,OilAcne)が出て治癒します。
 
 もし皮膚に抵抗のない場合には雑菌の侵入によって皮膚炎(Dermatitis)にまで進みやすくなります。
 
(添加剤の影響について)
切削油の種々の成分の影響は次のとおりです。
 
(1)不水溶性切削油
イ)鉱油
鉱油は皮膚の毛穴や汗腺を塞ぎ、刺激作用と脱脂作用があるため発疹、ひび割れを起こす因となります。特に精製度の悪いもの、低粘度(灯油や軽油など)のものは刺激が強い傾向にあります。
ロ)脂肪油
脂肪油は一般に鉱油よりも刺激性は少ないものです。
ハ)EP剤
EP剤として加えられているものは刺激性の少ないものが殆どで、脂肪族の硫黄化合物・塩素化合物は一般に刺激性が少なく、かえって鉱油よりも刺激性の少ないものもあります。
ただ芳香族の硫黄・塩素化合物(ナフタリンの化合物等)の中には刺激性の強いものがあります。ただし、塩化油は吸入すれば肝臓障害などを起こすことがあると言われています。
 
(2)水溶性切削油
 水溶性切削油の場合の刺激は、主としてアルカリの作用と脱脂作用によるもので、表皮が膨潤し抵抗性を失い乾燥され、肌荒れやひび割れが起こると考へられますがこれは家庭用・工業用アルカリ洗剤とほぼ大差ない程度といえます。
 ただし、PHの高いもの(11以上)は避けた方がよいし、ソリューション型は特に脱脂作用が大きいので注意が要ります。
 
(原因について)
皮膚炎など障害の発生する原因はいろいろあると思われますが大体次のようなことが考えられます。
(1)全ての作業者はつねに油にさらされているため絶えず油の刺激を受ける。
(2)油や油と塵埃の混じったものが毛穴を塞ぐため油疹などの原因となる。
(3)不潔な被服と皮膚の摩擦によって皮膚に油をしみこませて、油のしみこんだ被服は症状をさらに進行させる。
(4)油の脱脂作用などにより皮膚が乾燥し傷つきやすくなったり、油中や被服に付着した尖った金属片などが皮膚を傷つける。
(5)腐敗液・油中のバクテリアなどが切傷などからの侵入による炎症を起こし化膿したりする。(バイ菌性皮膚炎)
(6)経営者・作業者自身が障害者に対して単に対症治療を行うだけで、根本的な対策について関心が足りない。
 
(予防および衛生管理について)
切削油による皮膚障害の予防法としてはいろいろ考えられますが、
 
A:経営者が実施するものとして
(1)まづ、工場全体の安全を主体とし、作業に適した環境を作るよう努力する。
例えば、設備的には、発煙の排除設備、集塵機の設置、油中の危険な金属片を除去する濾過設備・シャワー・風呂など洗滌設備の設置等を実施する。腐敗防止のための攪拌などの設備。
 
(2)予防上会社が指導・教育徹底せねばならぬこととして
イ)天井・窓・床・壁等の清掃と工作機械なども定期的に清掃する。
ロ)良質油の購入・管理の徹底(PH調整・腐敗防止など)
ハ)各個人に対する予防処置の徹底教育
人体・被服の清潔・手洗いの励行・保護クリームの使用の習慣をつける様指導教育する。
 
B:以上の如き経営者側の努力と共に作業者個人も個人衛生としての清潔さを守るなど次の様な努力が是非必要です。
(1)環境・被服・皮膚などつねに清潔に保つこと。
イ)特に作業服などは常に洗濯して清潔にし、油のしみた作業服・汚れた手拭などは使用せぬ習慣をつけること。
ロ)手など露出している部分は常に石鹸などで洗い清潔に保つこと。
ハ)作業終了後はシャワー・風呂などにより全身を洗浄する。
 
(2)適当な保護クリームを使用すること。
使用前にはワセリン・ラノリンその他の保護クリームを使用し、使用後は中性洗剤で洗滌する。
保護クリーム(BarrierCram)は水溶性切削油と不水溶性切削油との二つのタイプに区分され、前者は水に、後者は油に不溶性のものとなっています。
 
(3)水溶性切削油に対しては特に
イ)アルカリ性の余り強いものは避ける。
ロ)腐敗した液は使用しないこと。
ハ)特にケミカルソリューション型のものについては使用前後の予防を行うこと。
などの注意が必要です。
 

 
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