ID-116 チェーン用潤滑剤について
 
1.はじめに
 
 動力伝達(伝動),搬送の手段としてさまざまな産業分野の機械,装置にチェーンが使用されています。
 最近、ハイテク化により樹脂やセラミックなどのパーツを組み込んだチェーンも登場していますが、圧倒的にスチール製のチェーンが多く使用されています。
 従って、他の工業用機械と同様に、性能の維持には潤滑剤が必要不可欠です。
 そこで、チェーンの機構とその潤滑剤の機能,特徴について説明します。
 
 
2.チェーンの構造
 
 チェーンには多くの種類がありますが、ここでは最も市場占有率の大きいローラーチェーンに限定して説明します。
 構成部品は、ピン,ブシュ,ローラー,内外プレートからなります。
 内プレートにはブシュが2個固定してあり、ブシュにフリーに回転するローラーがはめてあります。一方、外プレートにはピンが2本固定されており、ピンをブシュにとおし内外のプレートを交互に連続して繋ぐことでローラーチェーンが完成します。
 

 
 

 
3.チェーンの機構と摩耗への影響
 
 チェーンは通常2個(搬送用途では2個以上)のスプロケットと呼ばれる歯車のようなものに環状のチェーンを巻き掛けをして使います。
 その場合、スプロケットとの噛み合わせ部分では一定角度内での屈曲の往復を繰り返し、スプロケット間では一定方向の張力を受けるのみとなります。その張力はピン外面とブシュ内面の接触部分(限られた範囲)で受けることになり、しかもその接触箇所はずっと変化することがありません。
 
 チェーンを安全にかつ安定に運転するために、最も重要なのが摩耗によるチェーンの伸びをいかに抑えるかということです。摩耗が進行するとチェーンの長さが長くなりスプロケットとの噛み合わせにずれを生じたり、チェーンのぶれが大きくなる、また、屈曲の滑らかさが失われることによって装置全体の振動が大きくなる、異常音が生じるなどの現象につながります。
 
 この伸びを左右するのが、ピンとブシュの接触による摩耗です。ピンとブシュのクリアランスはコンマ数ミリと非常に小さく設計されており、そこに潤滑剤を封入するノウハウやその性能によってチェーンの寿命に大きく影響すると考えられます。
 その他にスプロケットとの噛み合わせではローラーの外面やプレート内面との潤滑が必要でありますが、チェーンの伸びへの影響は少ないと考えられます。
 

 
 
4.チェーン用潤滑剤の使い方
 
 前述のように潤滑剤の最大の目的はチェーンの伸びを抑えることですが、それを塗布するタイミングによって2通りに分類することが出来ます。
 1つはチェーン組立て時にメーカーが塗布するプレ給油用と、もう1つはチェーンのユーザーがメンテナンスを目的として塗布する途中給油用です。
 両者の決定的な違いは塗布方法にあります。
 
 プレ給油の場合、チェーンを潤滑剤に浸せきすることが可能ですが、途中給油はチェーンが稼動状態にある(装置に取り付けられたまま)のでそれはほとんどのケースで不可能です。
 つまり、ピン−ブシュ間の小さなクリアランスへ潤滑剤を浸透させることを可能にするには、塗布方法に応じて潤滑剤のタイプを使い分ける必要があります。
 
 
5.チェーン用潤滑剤の特徴
 
 途中給油(メンテナンス)で使用される潤滑剤は、タービン油やエンジンオイルなどの一般的な潤滑油が使用されます。
 産業用の大型チェーンなどのように、工場内に設置され常に途中給油が行える環境で使用されるチェーンにはそれほど高性能な潤滑剤が要求されることは少ないからです。
 
 一方、直接消費者によって使用される,また、市場に広く出回り途中給油が困難であるといったケースでは、チェーンの寿命はプレ給油の潤滑剤の性能に頼らざるを得ません。
 従って、プレ給油の性能を重視するチェーンには、チェーンの構造,潤滑剤の塗布方法などを考慮した高性能な潤滑剤を使用します。
 
 一般的に、プレ給油では石油ワックスを主成分としたものが主流となっています。
 これは、温度によって液体にも固体にもなるというワックスの特性を利用したもので、これらに酸化防止剤,防錆剤,固体潤滑剤などを添加し性能の向上を図っています。
 
 チェーン用潤滑剤として特に高性能を求められるケースを例に上げると、
  ・チェーンの使用される環境が屋外である。
  ・メンテナンスが行いにくい。
  ・高速回転で運転される。
  ・耐熱性が要求される。
 といった点があります。
 
 具体的な事例としては、自動2輪(モーターサイクル)に使用されるチェーンがそれにあたります。
 また、耐熱性を要求される事例としては、熱処理炉内や塗装の乾燥工程などの搬送装置に取り付けられるチェーンがあり、雰囲気の温度が150〜400℃という過酷なものもあります。
 このようなケースでは耐熱性の優れた合成油や黒鉛などの固体潤滑剤を配合したタイプを使用しますが、必ずしも潤滑剤のみで完全を期すことは困難です。
 
 
6.まとめ
 
 以上をまとめると下表のようになります。
給油の時期 プレ給油 途中給油(メンテナンス用)
チェーンの状態 チェーン組立て
あるいは組立て直後
装置に取り付けられたままの状態
チェーンが稼動状態にある
塗布の方法 潤滑剤にチェーンを浸せき出来る 滴下
吹き付け(スプレー)
潤滑剤のタイプ 常温で液体
加熱することで液体となるもの
常温で液体のもの
要求性能 ・潤滑性能(摩耗による伸びを抑える)
・防錆性能
・潤滑剤塗布後のチェーンの外観(油膜の色や付着量)
・作業性
「参考文献」
  ・チェーン(株式会社椿本チエイン編):工業調査会
  ・「チェーンのトライボロジー」中川健朗氏著:トライボロジスト 第43巻 第2号
  ・JIS B 1801
 
 

 
Copyright 1999-2003 Japan Lubricating Oil Society. All Rights Reserved.