ID-170 熱処理油の光輝性試験について

 焼入作業において、焼入前の表面状態を保ったまま仕上がることが望まれる場合が多いようです。焼入れ後、研削加工その他二次、三次加工が施される場合はこのことはそれほど問題になりませんが、焼入れが最終工程であるような加工部品の場合、白く光ったものが白く光ったまま仕上がること(光輝性)が要求されます。処理部品の光輝性を維持するためには、焼入れ前の洗浄、加熱時の雰囲気などに十分な配慮が必要ですが、焼入油に対する注意も欠かせません。
 焼入油には、本来光輝性を阻害するような物質(活性硫黄、塩素化合物など)は含まれていませんが、使用前の新油や、長期休止後の油槽には、大気中からの空気や水分が微量溶存していることがあります。このため、新油充填直後や長期休止後の運転開始の初期には完全な光輝性が得られないことがあります。これとは別に、焼入油は、使用中に酸化や熱分解により劣化物を生成します。このうち、とくに酸化により生成する劣化重合物は、焼入時に、処理物の表面に付着して光輝性を悪化させます。


図1 光輝性評価装置の概略


 これらのことから、焼入油の光輝性評価は、第一に焼入油製造時の品質管理に、次には焼入油槽の使用油管理に欠かせないものであるといえます。この評価のために、図1に示した機構のような装置が使われています。方法の概要は次のとおりです。

(1) あらかじめ研磨し、清浄にした試験片(材質:S45C、大きさ:直径25mm、長さ:10mm)を、無酸素雰囲気(窒素97%、水素3%の標準ガス気流中)で850℃に加熱、30min保持する。
(2) 加熱した試験片を、あらかじめ脱気、脱水した試料油(300ml)中に投入し、2〜3min後引上げ、表面の着色、汚れの程度を観察する。
(3) 結果は、標準試験片と比較し、5(最良)〜1(最悪)の五段階で表示する。
金属光沢保持、着色なし
灰色ないしごく薄い着色
4の地肌に茶色の縞模様
黒っぽい地肌に濃い縞模様
全面まっ黒

 ここで、特徴的なのは、3以下に縞模様が現われることです。これは、油の酸化劣化の進行に伴って生じるもので、加熱試験片の投入時に試料油の沸騰段階で生じます。一方、焼入油が何らかの汚染を受けた場合(例えば、活性硫黄化合物を含む切削油の混入事故などの場合)は、試験片全面がほぼ一様に着色し、縞模様は現われません。
 本評価方法の結果は、実機における処理物の仕上がり状態とよく一致しており、前述の焼入油の品質管理、一般的な使用油管理のほかに、光輝性悪化クレームの原因調査の一環としても有効に活用されています。
 
 

 
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