ID-208 TBS粘度(HTHS粘度)について
 
高温高せん断粘度とは
 
 エンジン油の高温高せん断粘度(HTHS粘度:High Temperature High Shear Viscosity)を測定する粘度計として、日本ではTBS粘度計という装置が広く使用されているために、150℃、106/sという条件の高温高せん断粘度をTBS粘度と呼ぶことがあります。
 
 先ず、高温高せん断粘度についてご説明する前に、マルチグレードエンジン油の性質について述べたいと思います。マルチグレードエンジン油には、粘度指数を向上させるために粘度指数向上剤というポリマーが添加されています。このポリマーは基油のなかで緩くからんだ糸くずのような形で溶解して粘度を高めています。温度が高くなると基油粘度は低下しますが、「糸くず」が膨らんで流動抵抗を増し、製品の粘度低下を小さくしています。ところが、オイルが金属間の狭い隙間でせん断を受けるとポリマーは流れの方向に配向して(狭い隙間に流れ込む「糸くず」を想像してください。繊維が流れの方向に流れて細長くなり)オイルの粘度低下がおこります。せん断が過酷な場合は、ポリマー分子が破壊されて永久的な粘度の低下を起こします。また、狭い隙間で高速でオイルが流れると発熱し、これも粘度低下の一因となります。

 
 つまり、マルチグレードエンジン油では大なり小なりベアリングのような摺動部では粘度の低下が起こっています。
 
 ある程度の粘度低下は燃費の向上に効果がありますが、著しく低下した場合はベアリングの摩耗・焼き付き、ピストンリングの摩耗といった問題を起こします。そこで、高温高せん断条件下でのオイルの(実質的な)粘度を測定するために使用される一般的な粘度計の一つがTBS粘度計です。
TBS粘度計の原理
 


 
 TBS法はASTM D 4683に規定され、日本では石油学会法JPI−5S―36―91に取り入れられました。
 TBSとはTapered Bearing Simulatorを略した回転粘度計の一種です。主要部分は円錐形をしたロータとこれにぴったりはまるステータからなっており、テーパーは1/160で設計されています。ロータとステータの間が106/sというせん断速度になるよう、ロータとステータ間を極めてわずかで正確な隙間(3μm)に保ち、ロータを規定回転数(3000rpm)で回転させます。実際には、HTHS粘度が既知の標準油で、正確なせん断速度が得られるように隙間の調整を行ないます。この隙間に試験油を満たし、150℃に保ってロータを回転させたときの粘性抵抗から粘度を測定します。
 
TBS粘度計主要部外観

ロータとステータ

 
その他の高温高せん断粘度測定法
 
高温高せん断粘度測定法としては、TBS法の他に次のようなものがあります。
(1) Rabenfield法
欧州で広く採用されている試験で、TBS法と同原理のRabenfield粘度計を用いる方法です。
CEC(Coordinating European Council)L−36−A−87、IP(Institute of Petroleum)
IP−370およびASTM D 4741に規定されています。いずれも同様の試験内容となっています。
 
(2) Capillary法
毛細管式粘度計をもちいて測定する方法です。ASTM D 4624に規定されています。
また、ASTM D 5481にも毛細管式の高温高せん断粘度の測定法が規定されています。
ただし、この試験法では温度は150℃と同じですが、せん断速度が異なっています(1.4×106s-1)。
 
(3) Taperd-Plug法
ASTM D 4741に規定されている方法です。
「参考文献」
  1)CEC L−36−A−87
  2)IP−370
  3)JPI 5S−36−91
  4)ASTM D 4624
  5)ASTM D 4683
  6)ASTM D 4741
  7)ASTM D 5481
 
 

 
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