ID-269 生分解性潤滑剤について
 
 
環境を保護し、人体に有害な物質を減らす、という現代の大きなテーマの中で潤滑油剤においても少しでも貢献できるように努力を払っていますが、そのなかの一つに「生分解性潤滑油剤」への取り組みがあげられます。
多くの潤滑油類は、直接的な有害物質とはなりにくいのですが、火災の発生、オイルミストや油剤の接触が人体に影響を与えたり、多量に流出すると動植物の呼吸作用を妨害し、大きな影響を与える可能性もあります。

生分解性の潤滑剤は、このような環境(大地・湖沼・海・大気)に漏洩した場合に、比較的少量であれば自然界のバクテリア等によって分解され、ほとんどが炭酸ガスと水となる様に設計されているものをいいます。しかし、使用された潤滑油類(廃油)が生分解性があるからと、むやみに捨て去ることは厳禁で、産業廃棄物としてしかるべき処置をとらなければなりません。

日本をはじめ、多くの国で公的機関などが環境対策として「エコマーク」のような"環境あるいは地球にやさしい"製品を認定していますが、生分解性潤滑剤についてもその対象とされているようです。 (エコマークについては本Q&Aの「エコマーク」をご覧下さい。)
ISOにおける油圧作動油の規格にも「環境対応を必要とする場合に適用する」項目として「HE**」グループが設定され、現在最終調整の段階にありますが、【表-1】のような構成となっており、生分解性や生態有害性についての基準を設定しています。

分 類 対 応 油 種 記 号 生分解性・有害性の規定項目
環境対策油を 要求される 場合に適用 トリグリセリド HETG
@生分解率;60%以上〔共通〕
A魚類に対する(急性)毒性試験
Bバクテリアに対する(急性)毒性試験
C活性汚泥による酸素消費量の阻害性
ポリグリコール HEPG
合成エステル HEES
PAOや合成炭化水素 HEPR
【表-1】ISO 作動油規格案の一部抜粋(ISO6743・ISO/ TC28/SC4)

生分解性潤滑油の開発・使用は、特に多数の国が水源を一にする欧州で活発です。郊外、 森林原野、河川や湖沼で使用する油圧作動油やチェーンソーオイル、グリースそしてチェーンソーやモーターボートの動力である2サイクルエンジン油が対象とされています。さらに、バイオ燃料や4サイクルエンジン油、農耕機用オイルの開発・試用もおこなわれています。ドイツやスイス等では条例により、郊外・森林等特定地域での作業には生分解性潤滑油の使用が義務付けられています。日本でも船外機用2サイクル油をはじめ、油圧作動油などが徐々にではありますが使用され始めています。

これら生分解性潤滑剤の基油は、現状では「なたね油系」や「合成エステル系」が占めています。
【表-2】には、各種基油の生分解性率を示しました。なお、この生分解率とは 自然界に流出した油がその割合で分解、消失するという意味ではありません。(試験法上での分解率)

分 類 基 油 試料油粘度 生分解率 %
天然油脂系 トリグリセリド類 菜種油
32〜46
98
鉱物油系基油 パラフィン系 溶剤精製基油
26
58
水素化仕上基油
46
50
ナフテン系
88
0
合成系基油 エステル系 トリメチルプロパン
14
100
ペンタエリスリトール
34
99
ジ-トリデシルアジペート
26
97
ジ-トリデシルフタレート
82
18
炭化水素系 ポリ-α-オレゴマー
32
10
PAG系 ポリエチレングリコール
-
>70
ポリプロピレングリコール
-
<15
※ 試料油粘度;40℃ mm2/s
【表-2】各種基油の生分解率(CEC法による)


次に、生分解性の基準ですが従来からは「CEC L-33-T82」による試験方法が多く使用されていましたが、試験の溶剤に四塩化炭素等の有害物質を使用することから、OECDが商品の安全性規格として規定している 「301B」や「301C」、あるいはASTM D5864等が今後は多く採用されるものと考えられます。
((財)日本環境協会が指定する生分解性の試験方法はOECDの規定によることと改定されています。)
【表-3】にはOECD法、CEC法等の方法と基準値を示しました。

試 験 法 試験期間 (日) 試験量(mg/l) 評価の対象 OECD合格 基準 (%)
OECD 301A 修正AFNOR法
28
40
水性有機炭素
≧70
OECD 301B 修正STURM法
28
1,020
二酸化炭素
≧60
OECD 301C 修正MITY(T)法
28
100
BOD
≧60
OECD 301D Closed Bottle法
28
2
BOD
≧60
OECD 301E 修正OECDスクリーニング法
28
5〜40
水性有機炭素
≧60
CEC L-33-T-82 CEC法
21
75
赤外吸収
≧67*
(注)*; 国際船舶工業協会の設定レベル

【表-3】 主要生分解性試験と判定基準

最後に、現状市販されている生分解性作動油の特性を鉱油系耐摩耗性作動油との相対比較として、【表-4】に示します。

生分解性作動油 (合成エステル系) 生分解性作動油 (なたね油系) 鉱油系耐摩耗性 作動油
生分解率(CEC法)
94%
80〜100%
50〜60%
粘度指数
◎ (180〜200)
◎ (190〜210)
○ (100〜120)
流動点
◎ ( -40℃)
○ ( -25℃)
○ ( -25℃)
耐摩耗性
摩擦係数
×
×
酸化安定度
×
加水分解性
×
ゴム膨潤性
×
シール材(NBR・バイトン)
低温保存性
×
鉱油からの切替え時 の留意点 ごく少量のコンタ ミは使用可能 十分なフラッシングが必要 -


参考文献
油空圧技術 日本工業出版 生分解性作動油 '92.11
'97 潤滑油管理フォーラム 講演予稿集 (潤滑油協会)
ISO/FDIS 6743-4 '99 FINAL DRAFT
ISO/TC28/SC4 '98
 
 

 
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