ID-S34 すべり軸受の潤滑方法について知りたい すべり軸受はエンジン用軸受に代表されるように、苛酷な条件下において優れた性能を発揮し、高い信頼性を得ています。ところが、これらのすべり軸受も適切な潤滑とそれに応じた軸受設計がなくては異常な摩耗や焼付きが短時間で発生してしまいます。 以下にすべり軸受を使いこなすための潤滑方法と軸受設計について述べることとします。 ●潤滑とすべり軸受性能 すべり軸受の多くは、相手軸との間に潤滑油を供給し、軸の回転によって発生した油膜で軸を支えるよう設計されています。このため潤滑状態によって軸受の負荷能力は大きく変わります。図1に潤滑状態による摩擦形態1)を示し、その時の摩擦係数の概要を図2に示しました。(a)の乾燥摩擦は無潤滑で油膜は存在せず、摩擦係数は高くなります。(b)の境界摩擦からの流体摩擦にかけて油膜は徐々に厚くなり、流体潤滑状態では軸受の摩擦面に連続した油膜が存在し、摩擦係数は低くなります。この状態では軸と軸受は直接接触することはなく、すべり軸受は大きな負荷能力を発揮します。
潤滑油は摩擦を軽減させるほかに表1に示す働きをもち、すべり軸受にとって最も重要なものとなっています。
●潤滑方法の種類 すべり軸受の主な潤滑方法を表2に示しました。aの強制潤滑法はオイルポンプで強制的に給油する方法で、油量、油圧の制御が可能で確実に給油できます。これによって流体潤滑の状態になり、軸受は大きな負荷能力を発揮します。bの油浴潤滑法およびcの飛沫潤滑法は給油のための装置が必要ないため簡便な潤滑方法として用いられます。dの滴下潤滑法は使用する油量が少ないため、すべり軸受の負荷能力は小さくなる場合が多いです。エンジン用軸受のように高速、高荷重で使用するすべり軸受には強制潤滑法を用いなければなりません。
図3は、一般的な4サイクルエンジンの強制潤滑での潤滑経路例です。オイルポンプで汲み上げられた潤滑油はフィルターを経てクランク軸受、コンロッド軸受を潤滑し、さらにピストン、シリンダを潤滑します。このように強制潤滑法は多くの軸受部を一度にしかも確実に潤滑できる利点もあり、広く使用されています。表2のb・c・dの潤滑法は高速回転の潤滑には適しません。 図3 エンジンでの潤滑経路例 この他に、潤滑油が使用できない場合には固体潤滑剤を使用した潤滑方法が用いられます。二硫化モリブデン、グラファイト、PTFEなどの使用がその代表例で、油が蒸発するような真空中や油の使用限界を超えた高温、低温での潤滑2)には欠くことのできないものです。 ●潤滑方法とすべり軸受設計 すべり軸受は潤滑状態によって適正な軸受材料の選定が必要となります。一般的には流体潤滑、混合潤滑では金属系の軸受材が主に使われ、固体接触の機会が多くなる境界潤滑、無潤滑ではカーボン系や樹脂系が使われます。 設計面では様々な軸受設計要素がありますが、ここでは潤滑方法と関係の深い油穴と油みぞに注目して述べます。図4に軸受への給油法の設計例を示します3)。 図4 給油方法の種類 一般的にはハウジング給油法が用いられ、この場合油穴は無負荷側に設けます。軸給油法は軸受に回転慣性力(回転荷重)が加わる場合に用いることが適切で、その代表例がエンジンのコンロッド軸受への給油です。この場合回転軸への送油が必要であり、図5に示す方法で主軸受から送油します。A法、B法が一般的で、C法は使われる例が少なくなりました4)。 図5 コンロッド軸受への送油経路 軸給油法においても油穴は無負荷側に設けます。この油穴位置の適否は重要です。図6にコンロッド軸受の軸心軌跡と油穴位置の関係を示します5)。 図6 コンロッド軸受の軸心軌跡と軸の油穴位置関係 油穴は油膜厚さが最大になる位置にあけることが望ましいです。サイド給油法は軸受端部から給油する方法で、油みぞは軸受または軸に設けます。この油みぞは潤滑油量を増して冷却作用を向上させるためにも効果があります。図7に潤滑方法や給油方法などの使用条件に応じた代表的な油みぞの設計例を示しました6)。 図7 油みぞの設計例 いずれの油みぞも潤滑油を軸受に一様に行きわたらせる利点はありますが、逆に流体潤滑膜が不連続になり、場合によっては軸受の負荷能力を大きく低下させてしまう欠点もあります。したがって油みぞの設計には十分注意を要します。 以上で述べたように、すべり軸受にとって潤滑は不可欠なものであり、潤滑方法によって軸受性能は大きく変わります。使用条件に応じた潤滑方法の選定とそれに適した軸受設計との組合せがあってこそ、すべり軸受は十分に性能を発揮するものであるといえます。 |
「参考文献」 1),2)潤滑ハンドブック:潤滑学会(1978) 3),6)軸受デザインガイド:大豊工業(株)(1992) 4),5)福岡辰彦:第23回東海トライボロジー研究会資料 |
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