ID-S47 転がり軸受の油膜パラメータを求めるには
−ラジアル軸受の場合−
 
 
 転がり軸受の潤滑に対して、軸受の内部諸元が判らないと、油膜の計算はできません。
 
 転がり軸受の中のラジアル軸受について、軸受の内部諸元が判らない状態で、軸受の油膜パラメータΛを推定計算する方法について以下に述べることとします1)
 
 油膜厚さの計算式はDowson-Higginsonの式
 
min/R=2.65G0.540.7-0.13
 
を使います。
 
 油膜パラメータΛを求めるための最小油膜厚さhminは、軸受の中で油膜が最も薄くなる最大荷重を受ける転動体と軌道との間の値をとります。
 
 油膜パラメータΛの概略値は、次の式から推定計算することができます。
 
Λ=C・N・S・K
 
ここで、C:軸受の形式で決まる係数、N:粘度の項、S:回転速度の項、K:表面粗さを含む幾何学的諸量で決まる項です。この式の中に軸受荷重の項が含まれていません。それは、EHL油膜に対する荷重の影響が小さいので、荷重の効果をKの値に含ませたからです。
 
●油膜パラメータの概略値推定の手順
(1)C:表1から軸受の形式によってCの値を求める。

表1 軸受形式とC値
 軸受形式c値
 玉軸受1.5
 円筒ころ軸受1.0
 円すいころ軸受1.1
 自動調心ころ軸受 0.8
 
(2)N:絶対粘度η0(cp)と油の種類によって、図1から求める。
 

図1 潤滑油の粘度とN値
 
 一般に、粘度は動粘度0(mm2/s=cst.)を用いることが多いので、次の式で換算する。
 
η0=ρ・0
 
 ρ:潤滑油の密度(gr/mm3)である。値が不明な場合は、表2の概略値を使う。また、鉱油でナフテン系かパラフィン系か不明のときは、パラフィン系の値を用いる。
 
表2 潤滑油の密度
 油の種類密度ρ
 鉱油0.85gr/mm3
 シリコーン油 0.9
 ジエステル油 1.0
 
 
 粘度そのものが不明のときには、図2を使い、軸受温度から求める。
 

 
図2 潤滑油の動粘度と温度
 
 
(3)S:図3によって、軸受の回転速度(rpm)から求める。
 

 
図3 回転速度とS値
 
 
(4)K:図4によって、使用する軸受の直径系列と軸受内径(mm)から求める。


 
図4 軸受内径、直径系列とK値
 
 
●油膜パラメータの概略値推定式の補正
 
 上述の油膜パラメータの概略値の推定式は、転がり接触の入口部分に油が十分にある(fully flooded)条件と入口部分の温度が一定(isothermal)の条件を満足しているときの値です。
 
 これらの条件が満されない場合には、計算値を補正する必要があります。
 
(1)油不足(oil starvation)の補正:潤滑油の供給が不十分またはグリース潤滑の場合には、計算から得られたΛの値に、0.5〜0.7の補正係数を乗じて使う。
(2)高速回転の補正:高速回転では、転がり接触の入口部分における油はせん断によって局部的に温度上昇し、油の粘度が低下して、油膜が薄くなるので、補正が必要になる。そこで、図5によって、油の粘度と回転速度(dmn)をパラメータとして、減少係数Shを求め、計算から得られたΛの値に乗ずる。
 

図5 せん断発熱による油膜パラメータ減少の補正係数
 
 
 図5において、dmnは、dm:(D+d)/2(mm)、D:軸受外径、d:軸受内径、n:軸受の回転速度(rpm)として、dmとnの積です。
「参考文献」
  1)相原了:油膜パラメータ計算図表−ラジアル軸受の場合−、NSK Brg. J. No.641 (1981) P.9
「出典」
ベアリングQ&A 月刊トライボロジ1990.6 P30-31
 
 

 
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