ID-S52 転がり軸受を高速化するためにはどうすればよいか 高速回転という考え方には、周速が大きいということと回転角速度が大きいということの2つの意味があります。高周速では軸受の温度上昇と焼付き、高角速度ではその振動と音響が問題になることが多いです。 転がり軸受の高周速の例では、内径30〜200mmの玉軸受や円筒ころ軸受をdn値3×106で回転させたときの内径面周速160m/sがあり、高角速度の例には内径3mmの玉軸受を63×104rpmすなわち1×104rpsで回転させた記録があります。 ●高速化の実績は 転がり軸受の高速化の程度を表わすのに、dn値が使われることが多いです。dは軸受内径をmm、nは回転速度をrpmで表わしたときの積です。図1に、いろいろな機械に使われている転がり軸受の現在の使用限界dn値と近い将来の目標になっているdn値を示しました1)。 ![]() 図1 転がり軸受の高速化の動き この図で、最も大きいdn値で使われている航空ジェットエンジンの主軸受は、高速軸受の代表例です。図2に、この軸受の高速化の実績を示しました2)。年3.7×104の割合で、その実績が増加しています。そして、現在、dn値3×106は、実験室内では実現しています。 ![]() 図2 航空ジェットエンジン主軸受のdn値の動き ●高速化するには 転がり軸受を高速化するためには、軸受だけの設計では不十分です3)4)。高速仕様の軸受に加えて、潤滑、軸とハウジングの設計まで含めた“高速軸受システム”として設計しなければなりません。 その際、考えにいれなければならない事項を表1に示しました。高速化のためには、これらのすべての項目を検討しなければなりません。 ![]() 高速回転での問題点は、軌道輪、転動体、保持器、潤滑に対して遠心力、温度、振動の影響を考えにいれることです。 ●高速化のための軸受形式は 高速回転に適する軸受形式は、転動体と軌道との間の接触運動する部分に、滑り摩擦の割合の小さい深溝玉軸受、接触角の小さいアンギュラ玉軸受、円筒ころ軸受などです。 ●高速化のための潤滑は 軸受を高速回転させると、軸受自身の摩擦モーメントによって発熱し、軸受温度が上昇します。一方、潤滑剤には耐熱限界温度があるので、潤滑剤が入れ替らない使い方である潤滑グリースでは、早期に劣化してしまいます。したがって、潤滑グリースを使って高速化を計る場合には、高速・高温用グリースの選定が最も重要な問題になります。 油潤滑の場合には、いろいろの潤滑法があります。高速軸受では、ある回転速度以上の条件では、軸受の中を通り抜ける潤滑油の供給量を増やし、油の潤滑作用に加え、油によって軸受の強制冷却作用を行なわせて、軸受温度を低下させます。 実際には、工作機械の主軸の軸受などの低荷重・高速ではオイル・エア潤滑が使われることが多いです。航空エンジン主軸の軸受のように高荷重・高速回転では、従来のジェット潤滑法に代って、最近では遠心力を上手に使って油を確実に軸受内部に導く、図3のようなアンダー・レース(軌道輪の下からの)潤滑法が実用されています。 ![]() 図3 アンダーレース潤滑 ●高速化のための軸受材料は 高速軸受は高温軸受でもあります。そこで、軸受材料としては耐熱鋼が使われます。さらに、高速回転のために、単位時間当りに転動体と軌道との間に発生する接触応力の繰返し数が多くなります。また、転動体を外輪軌道に押しつける遠心力は回転速度の2乗に比例して大きくなるので、長寿命であることも求められます。 そこで、航空ジェットエンジンの主軸受では、その溶鋼工程の中で真空溶解を2度繰返して製られるMo系耐熱鋼のVIMVAR-M50が標準の材料になっています。 また、遠心力は回転する内輪や保持器に円筒方向の引張り応力を発生させます。dn値が250×104以上になると、転がり疲れによるフレーキングが内輪の軌道に発生すると、この引張り応力のためにクラックが内輪の内側に進行し、内輪自体をばらばらに破断させる破損形態になります。そのため、内輪の引張破壊に対して、靱性をもたせた耐熱肌焼鋼が研究・開発されています。 ●高速化のための軸受構造は 高速回転に伴う遠心力を利用して、潤滑油を軸受の内部に導入し易いようにした軸受の構造にします。それに、アンダー・レース潤滑法を組合せて使います。図3に、玉軸受と円筒ころ軸受の例を示しました。 潤滑油は転動体と保持器の案内面に、直接、確実に導入され、軸受の冷却効果を高めます。 ●高速化のためのダンパーは 剛性を重要視する工作機械の主軸では、実用の回転速度は一般に軸系の固有振動数の下になるように設計します。 ジェット・エンジンやガスタービンのようなターボ機械では、軽量化のために、軸系の固有振動数を越えたところに使用回転速度を設定することが多いです。このときには、軸受の外輪部分に油膜によるスクイズ膜ダンパーなどをつけて、危険速度による共振現象を減衰させるようにします。 以上のような軸受の高速化に対する研究・開発によって、原理的には、軸受材料が遠心破壊するまで、軸受を高速回転させることが可能になると思われます。 |
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