ID-040 ディーゼルエンジン排気ガス中のパティキュレートについて
 
1.パティキュレートとは
 
 ディーゼルエンジンから排出される物質の一つに粒子状物質(英語ではParticulate Matter)があります。この粒子状物質はパティキュレートあるいはPMとも呼ばれます。パティキュレートは窒素酸化物(NOx)と共に、ディーゼルエンジンからの排出ガス規制の対象物質とされています。パティキュレートが大気汚染の一因とされる理由は、黒煙のような見た目の印象(パティキュレートの構成物質の一つは煤)の他に、呼吸器に対する障害、アレルギーあるいは発癌性が疑われているためです。しかし、健康に対する影響は未だ未解明の部分が多々あるようです。
 
 
2.パティキュレートの成分
 
 パティキュレートは(1)ドライスート、(2)SOF、(3)サルフェートから構成されています。パティキュレートの成分構成の一例と電子顕微鏡写真を示しました。なお、パティキュレートの成分構成はエンジンの種類(例えばDIとIDI、過給機の有無)や、運転条件によって変わります。
 
 
(1)ドライスート
 
 これは、ディーゼルエンジンの排気煙でしばしば目にする黒煙(煤)にあたります。これは燃料の噴霧油滴が燃焼時の熱で「蒸し焼き」状態になって生成します。高圧燃料噴射等の燃焼改善により低減されてきました。黒煙の主成分は炭素であり、炭素そのものは人体には無害ですが、微粒子化した場合は肺の奥深くに運ばれて生体に悪影響があるといわれています。
 
(2)SOF(Soluble Organic Fraction:有機溶媒に溶ける成分)
 
 SOFは、不完全燃焼による燃料の燃え残りとエンジン油からなっています。最近では大幅に低減されてきましたが、更なる低減に向けて、エンジン油から由来する部分を減らすためにエンジン油の蒸発性低減が議論されています。SOFにはアレルギーを引き起こす作用があるといわれ、また、SOF中には数個のベンゼン環を持つ多環芳香族炭化水素が存在するいう報告もあり、発癌性が疑われています。
 
(3)サルフェート(硫黄酸化物)
 
 ディーゼルエンジンの燃料(軽油、重油など)には硫黄分がわずかに含まれていますが、燃料が燃焼する際に硫黄分も燃焼し、水分に溶けて主に硫酸の形でパティキュレートを構成します。硫黄酸化物は酸性雨の原因となりますが、呼吸器に対しても刺激作用があるとされています。燃料中の硫黄分の削減はパティキュレート低減に大きく寄与することが分かっています。軽油の硫黄分は1992年に0.2%に削減されましたが、1997年秋には0.05%以下にまで削減され現在に至っています。
 
 
3.パティキュレートのさらなる低減に向けて
 
 エンジンメーカーでは主に燃焼改善によるパティキュレート低減を行ってきました。しかし燃焼改善のみではパティキュレートの低減に限界があることから、今後は後処理装置の採用が進むものと思われます。後処理装置としてはパティキュレートを補足するディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)やSOF等を低減させる酸化触媒などがあります。後処理装置によっては硫黄分が悪影響を与える場合があり、軽油の更なる低硫黄化も今後の検討課題になると思われます。
「参考文献」
  1)横手英治、「DPFシステムとその適用例」、PETROTEC 第20巻 第9号(1997)
  2)淡井信幸ほか、「燃料油」、山海堂、(1994)
  3)SPM、(社)日本自動車工業会パンフレット
 
 

 
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