ID-163 工業用潤滑油の酸化防止剤の評価方法
 
 工業用潤滑油に添加される酸化防止剤としては、フェノール系、アミン系、ZnDTP 等が代表的ですが、これら酸化防止剤の評価については次の点を考慮する必要があります。
 
I. 潤滑油基油が酸化劣化する過程において、反応途中のラジカル生成物の連鎖を停止させたり、過酸化物を分解し劣化をくい止める能力(添加剤の反応速度)の評価。
II. 潤滑油基油に添加した時、基油の精製方法が異なる(不純物等の残存量の相違)ことによって実際の酸化防止能力に差がでてきますので、基油との総合的な評価。
 
 これら評価のうち、I.につきましては理論的にかなりむずかしくなりますし、まだ完全に解明されていない部分もありますので、概念的な表現で示したいと思います。
 
 一般に潤滑油基油の劣化パターンは次のようであるといわれています。
 

 このような劣化進行の中で、具体的には(3)〜(5)式の部分でその進行を防止しようとするのが酸化防止剤の役目です。
 
 (3)式;「ROO・+RH」の部分において、炭化水素 RH の代わりに酸化防止剤 AH をより早く ROO・ と反応させることによって連鎖を断ち切ることができます。この作用をする添加剤を『連鎖停止剤』と称しています。
 

 
 この反応で生成した A・ はできるだけ反応性の低いものが良いわけです。この反応に寄与する酸化防止剤の代表として フェノール系やアミン系があげられます。
 
 さらに、(4)式に見られるように、 ROOH も熱や光、触媒の作用で RO・+・OH となり易いのですが、これを分解し不活性な物質に変え、やはり劣化の連鎖を食い止めることができます。こうした働きをするものを『過酸化物分解剤』と称しZnDTPや有機サルファイド等が代表的とされています。(ZnDTPは連鎖停止剤としても機能するといわれています。)
 
 いずれにしても、酸化防止剤は以下の点が評価されます。
 
<1>  酸化生成物が次の反応に移る前に、酸化防止剤が作用しなければなりません。この反応速度は速すぎても遅すぎても良くなく、適切な速度が望まれます。
<2>  しかし、添加剤自身の酸化劣化速度が速くてはすぐに消耗し、使用に耐えられませんので自己酸化速度はできるだけ遅くなければなりません。
 
 次にある基油に添加した場合にどれだけその性能が発揮できるかという評価が重要になってきます。その理由は、同一の酸化防止剤を等量に添加しても添加する基油の組成、精製度によってその添加効果が大きく異なるからです。元来、溶剤−水素化精製をおこなった基油には天然の酸化防止剤が含まれ、適度な酸化防止作用を発揮します。しかし、これはマイルドな条件下での使用には十分有効ですが高温条件下での長期の使用では逆に劣化時にスラッジを生成するとされています。
 
 このため、近年ではより高度な処理をおこない、この天然酸化防止剤を含め不純物を極力除去した基油も多くなっています。この基油は合成系酸化防止剤の添加効果がより大きくあらわれる特性をもっています。
 
 このような点から、潤滑油メーカー各社が持つ基油と一体となった酸化防止性能を評価の対象としなければ判断を誤ることになります。図1には、数種の基油と同一酸化防止剤の添加効果を示しました。
 

 
    パラフィン系基油
     CA:基油中のアロマ分
      S:基油中の硫黄分
 
図1 酸化防止性能に及ぼす基油組成の効果

 
 基油との総合的な評価法としては「JIS K 2514:酸化安定度試験」が多く採用されています。
 これらの試験法を表1に示しますが、内容についてはここでは省略します。
 
 
表1 酸化安定度試験の種類
規格 用途 試験法 試験条件
JIS K2514
 −4
エンジン油に多く採用される 内燃機関用潤滑油酸化安定度
(ISOT)
試料250ml, 165.5℃×24hr
触媒;銅・鉄,1300rpmで攪拌
JIS K2514
 −5
工業用潤滑油に多く採用される タービン油酸化安定度
(TOST)
試料300ml, 95℃, 水60ml
触媒;銅・鉄,酸素吹き込み
JIS K2514
 −6
ロータリーボンベ式酸化安定度
(RBOT)
試料50g, 150℃, 水5ml
触媒;銅,酸素封入後、回転
(JIS参考
 試験法)
油溶性触媒法
(CIGRE)
試料30g, 120℃×164hr,酸素
触媒;ナフテン酸銅・ナフテン酸鉄
タービン油
油圧作動油 等
改良TOST法 試料300ml, 120℃,水なし
触媒;銅・鉄,酸素吹き込み
 
 
参考文献
  月刊 潤滑 日本潤滑油学会 編 '80.10タービン油シンポジウム:討論
  新版 石油製品添加剤 幸書房
 
 

 
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